妊娠中・授乳中の「頑固な咳」 咳喘息への LABA/ICS 使用は可能か? 最新の国内外ガイドラインから整理
妊娠中・授乳中の「頑固な咳」 咳喘息への LABA/ICS 使用は可能か? 最新の国内外ガイドラインから整理
[2025.11.13]
1. 今いちばん多い相談は「咳だけ止まらない」
外来で非常に多いのが、
- 新型コロナ後の長引く咳
- 後鼻漏が治っても続く咳
- 風邪後 3週間以上続く咳
- 深夜や朝方にだけ出る咳
- 痰が出ないのに咳ばかり続く
こうした「咳が主体」で来院する方で、もともと喘息歴がないケースは多いです。
医学的には 咳喘息(Cough-variant asthma) や 気道過敏性亢進 を疑う病態。
そしてここで最も多い質問が
- 妊娠中でも LABA/ICS 使っていい?
- 授乳中でも大丈夫?
- 咳がひどい時だけ使う方法はある?
という点です。
2. 結論
日本のガイドラインは
妊娠中・授乳中でも、咳喘息に ICS または ICS/LABA を使用してよい
と明確にしています。
日本の喘息ガイドライン(JGL 2021)
- 咳喘息は喘息の一亜型として扱い、基本治療は ICS(吸入ステロイド)。
- 必要に応じて ICS/LABA 配合剤の使用も選択肢。
- 妊娠中でも「発作予防薬(ICS・ICS/LABA)は中止しない」ことを推奨。
(※JGL2021/日本産科婦人科学会 妊娠と喘息の管理)
つまり、妊娠中・授乳中でも ICS、ICS/LABA を継続または開始してよい。
これは 咳喘息の患者にもそのまま適用される。
3. LABA/ICS は妊婦でも“咳だけの人”に使ってよいのか?
ポイントはここ。
喘息既往がない人でも、
「咳喘息疑い」= 気道過敏性、夜間・早朝の咳、乾性咳 がある場合、
治療の本質は喘息と同じ「気道炎症+気道過敏性」の抑制。
JGL2021は以下を明記:
- 咳喘息の第一選択は ICS
- ICSで不十分なら ICS/LABA を追加してよい
妊娠中については:
- 「妊娠がわかったから治療強度を下げる必要はない」
- 「ICS は安全性が確立」
- 「ICS で不十分な場合の LABA 併用も許容」
(日本産科婦人科学会「妊娠中の喘息管理」より)
つまり、妊娠中・授乳中でも「咳喘息」には ICS/LABA が適応。
4. 具体的な吸入薬ごとの安全性
(咳喘息の妊婦・授乳婦に使えるか)
4-1 ICS(第一選択)
- ブデソニド(パルミコート)
- フルチカゾン(フルタイド)
- ベクロメタゾン(キュバール)
妊婦では ICS が第一選択。
胎児への悪影響を示す明確なデータなし。
咳喘息の妊婦でも、まず ICS 単剤で治療が基本。
4-2 ICS/LABA(症状が強い咳に)
- ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート)
- フルチカゾン/サルメテロール(アドエア)
- フルチカゾン/ビランテロール(レルベア)
使用してよい理由:
- 妊娠中に ICS だけで咳が改善しない例は存在
- LABA の妊婦データで明確な有害性は報告なし
- ICS/LABA を使わずコントロール不良の方が母体・胎児リスクが高い
→ JGL・日本産科婦人科学会ともに
「必要に応じて ICS/LABA を使用可」 と明記。
4-3 SABA(頓用)
- サルブタモール(ベネトリン)
発作的な咳込みには妊娠中も使用可。
5. 海外ガイドライン(補足)も一致している
GINA(国際喘息ガイドライン)
- 妊娠中も ICS、ICS/LABA の継続を推奨
- 咳喘息も “asthma spectrum” として管理
- ICS で不十分なら LABA 併用は許容
米国 NAEPP・ACOG
- ブデソニドを第一選択とするが
他の ICS/LABA も継続可 - 咳喘息は「喘息と同様の治療」
NICE(英国)
- 妊娠中でも ICS/LABA は通常どおり治療
- 咳喘息も ICS-first で、必要時に LABA 併用
海外ガイドラインもすべて、
「咳だけの妊婦」に ICS/LABA を使える
という結論で統一。
6. 妊娠中・授乳中の「咳喘息の治療アルゴリズム」
ステップ1:ICS単剤
- パルミコート
- フルタイド
- キュバール
(1〜2週間で改善することが多い)
ステップ2:ICS/LABA
症状が
- 夜間・朝方に強い
- 会話困難な咳
- 3週間以上の遷延
- ICS単剤で不十分
→ シムビコート/アドエア/レルベア等を追加
妊娠中でも 安全性と利益のバランスが “使用した方が有利” と判断される。
7. 妊娠中の「咳が止まらない」最大のリスクは何か
実はガイドラインが最も警告しているのは
- 咳による換気障害(低酸素血症)
- 睡眠障害・栄養不良
- 副鼻腔炎・気道感染の増悪
- 咳喘息 → 典型喘息化のリスク
これらは母体だけでなく胎児への血流にも影響する。
だからこそ、
薬を使わないリスク > 薬を使うリスク
という判断が世界共通。
8. まとめ(咳喘息 × 妊娠・授乳)
- 妊娠中・授乳中でも ICS は安全に使用できる
- ICSで不十分な場合、ICS/LABA も使用可能(国内外一致)
- 元々喘息がない「咳喘息疑いの妊婦」も、治療指針は同じ
- 治療せず咳が続く方が、妊娠に対するリスクが大きい
- 授乳中も吸入薬はほとんど母乳へ移行しない
参考文献(国内ガイドライン優先)
- 日本アレルギー学会. 喘息予防・管理ガイドライン2021
- 日本呼吸器学会 喘息診療実践ガイドライン2021
- 日本産科婦人科学会「妊娠と喘息」
- Murphy VE, Asthma in Pregnancy(2023)
- GINA 2024
- NAEPP, Asthma Management in Pregnancy(2020)
- NICE Guideline NG244(2024)
ひろつ内科クリニック受診予約はこちらから
https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08874
犬に咬まれたらまず何をすべき? ― 応急処置・病院受診の目安・感染リスクを内科医が解説 (2026年2月19日)
この記事の要点
犬に咬まれた直後にまずやるべきことは、流水で最低5分間、傷口を徹底的に洗い流すことです。 これが感染予防において最もエビデ… ▼続きを読む 外国人診療をつつがなくこなしているクリニックは、日本人に対する診療姿勢も良いと予想される理由 (2026年2月15日)
最近、日本の医療現場でも外国人患者を診る機会は確実に増えています。観光、留学、就労など背景はさまざまですが、「言語や文化が異なる患者を診療す… ▼続きを読む デパスは本当に危険な薬なのか? ―依存性問題と臨床的役割を整理する― (2026年2月14日)
「デパスは危ない薬らしい」
「依存になるから絶対にやめた方がいい」
このような情報を目にして、不安になったことがある方もいるかもしれませ… ▼続きを読む 花粉症市販薬を徹底比較⑥【完全版】 OTCで治らない花粉症 ― どこからが医療介入か。市販薬の限界を“重症度と作用機序”で整理する ― (2026年2月13日)
シリーズ最終回は、結論を明確にします。
市販薬(OTC)は、成分そのものは医療用と共通のものも多く、軽症〜中等症の一部では合理的に使えます… ▼続きを読む 花粉症市販薬を徹底比較⑤【完全版】 総合鼻炎薬という名の“配合カプセル”を解体する ― パブロン鼻炎カプセルSα・コンタック鼻炎Zの成分構造を読む ― (2026年2月13日)
ここまでで整理したように、
・抗ヒスタミン単剤
・点鼻ステロイド
・血管収縮薬
は、それぞれ作用機序が明確です。
一方、市販棚で目… ▼続きを読む